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Project no.16

​CPEバッグ&長文ポエム

 

​好きでたまらない曲をモチーフに落とし込んでいく試み。

第2弾 : ワールドイズマイン/ryo

"Le Monde est à Moi(ル・モンド・エ・ア・モワ)"はワールドイズマインの意味です。

もしミクさんがパリでメゾンを開店したら...?という妄想が止まらなくなってしまい、服を入れられるようなジップ付きのマットブラックなPEバッグを作ってみました

36x46cmの大きなサイズ、入れたものが透けづらいマットブラック仕上げ。旅行やサウナにいかがでしょうか。

イベントでたくさん買ってくれた人には無料でプレゼント。単体販売は...ほしい方がいらっしゃれば。

小説のキャッチ:

「“歌姫が片手間に服?” 誰もが疑った初音ミクの新たな挑戦は、
 やがて世界を虜にするメゾンへと進化する──。」

本文は下にございます。

ワ ー ル ド イ ズ マ イ ン
Le Monde est à Moi

v1.2 (20250304)

序章:音が運んできた招待状

初音ミクは“音”で世界を彩るバーチャル・ディーヴァ。ネットを通じて無数のファンに歌を届ける日々を送っていた。彼女のライブは常に最先端の映像技術と観客の情熱が融合し、バーチャルとは思えない臨場感を生み出す。しかしある日、彼女の胸を高鳴らせる招待状が届く。
「パリで行われる大規模コンサートへの出演依頼。」
その一文を読んだ瞬間、ミクは小さく息をのむ。芸術とモードの都、パリ。そこでは世界中のアーティストが一同に会し、音楽のみならず最先端のステージ演出やファッションの数々が惜しみなく披露されるという。彼女は迷うことなくその招待を受け取った。

そして迎えた当日、パリの会場に降り立ったミクは驚くべき光景を目にする。ステージの豪華さはもちろんのこと、楽屋周辺で目にする衣装の華やかさ、モデルたちの威風堂々とした姿、そして忙しそうに駆け回るデザイナーやメイクアップアーティスト。フランスでは、音楽と同じくらいファッションに情熱が注がれているのだ。

コンサート本番前、他の出演アーティストのパフォーマンスやファッションショーを見学していたミクは、あるドレスに完全に心奪われてしまう。透き通るような布地に緻密な刺繍、そして舞台照明の角度によって変化する独特の輝き。
「まるで歌声が布に宿ったみたい……」
そう感じるほどの衝撃に、しばし呆然と立ち尽くす。音で世界を彩ってきた自分だけれど、「服で世界を創り上げる」その力強さもまた圧倒的だと痛感したのだ。

第一幕:ファッションへの目覚め

コンサート自体は大盛況のうちに幕を下ろした。世界のファンがSNS上で絶賛し、ミクもいつものように感謝の言葉をネット越しに届ける。――しかし、終演後もミクの心にはあのドレスの残像が渦巻いていた。
「私も、服作りをしてみたい。音楽を届けるように、ファッションを通して人の心を動かしてみたい」

そう考えたミクは、パリ滞在を延長することを決意する。しかし、安易な思いつきでブランドを立ち上げようとしても周囲は冷ややかだった。「歌姫が片手間に服を作るの?」と言わんばかりの反応。オートクチュールやファッション業界のプロからは特に厳しい声が返ってくる。伝統あるパリのメゾンでは、それ相応の下積みや知識、そして情熱が求められるのだ。

それでもミクは諦めない。彼女にとって、音楽で人を笑顔にするのも、服で人を笑顔にするのも本質は同じだと信じていた。そうして街を歩くうちに、たまたま訪れた小さなアトリエに導かれるように足を踏み入れたのが、始まりだった。

第二幕:アトリエをめぐる旅

パリは世界有数のファッション都市。大通りには老舗メゾンのブティックが林立し、裏通りには若いクリエイターや職人が営む小規模なアトリエや工房が点在している。そんなパリのあらゆる場所を巡るうちに、ミクは伝統を受け継ぎながらも常に革新を求めるパリのファッション界の奥深さを知る。

ある老舗メゾンのショールームを見学させてもらった際、ミクはオートクチュールがいかに職人技の結晶かを思い知らされる。一着のドレスを作るのに100時間、200時間、あるいはそれ以上の手作業を要することも珍しくない。アトリエには「フロウ(Flou)」と呼ばれるドレスやブラウスの仕立て部門、「テーラー(Tailleur)」と呼ばれるジャケットやコートなど構築的な服を仕立てる部門があり、さらに刺繍専門の工房や羽根細工工房、帽子職人(モディスト)がそれぞれ別に存在する場合もある。ときには靴専門の職人(ボッティエ)とも連携して、ひとつのコレクションを形作るのだ。

大きなメゾンだと、こうした専門工房を自社傘下として抱えているが、小規模メゾンや独立系デザイナーは外部の職人ネットワークと連携しながら作品を仕上げる。いずれにしても、ひと針ひと針の手仕事の積み重ねが、音楽で言うところの「生演奏」的な魅力をファッションにもたらしている。

そんな話を聞きながら、ミクはふと考える。「自分が作るドレスも、音楽を作るときと同じで、一つひとつのニュアンスを積み上げて完成させるものなのかも」と。

街を歩いていると、ふと目に飛び込んできたのは、小さな工房の木製看板。「アトリエ・エレーヌ」と書かれたそこは、かつて有名メゾンで修行を積んだ若手デザイナーのエレーヌが独立して立ち上げた空間だった。ドアを開けると、生地のロールやミシン、刺繍フープ、帽子の型紙などが所狭しと並び、一見散らかっているようでいて不思議な熱気と活気が満ちている。

エレーヌはミクのコンセプトノートを読むと、すぐに目を輝かせる。
「あなたは“音”で世界を照らしてきた。その音から見えたビジョンを、今度は“服”で表現したいのね。私も協力するわ」

エレーヌは、オートクチュール一筋の老職人たちと組むことも多く、刺繍専門工房や羽根細工の職人とも繋がりがある。自分のアトリエだけでは足りない技術や手数を、パリ中の工房と連携して形にしているのだ。そうした柔軟な姿勢に、ミクは「音楽制作と似ている」と感じる。自分一人の力だけでなく、エンジニアや映像クリエイター、バンドメンバーなど、多くの仲間と協働することで最高のライブを実現する――それと同じだと。

「ねえ、まずメゾン名は何か考えてる?」
そう問うエレーヌに、ミクは迷わず答える。
「『Le Monde est à Moi』――直訳すれば『世界は私のもの』。ちょっと強気だけど、女の子なら誰でもそう思う瞬間があるよね? それを肯定できるようなブランドにしたいんだ」
「ワールドイズマイン、でしょ? あなたの歌を知っている人なら誰でもピンとくるわね!」

こうして二人はタッグを組むことを決める。音と服を融合させ、“身にまとうだけで自信が湧き上がる”ような作品を作る。小さなアトリエから始まった挑戦が、パリのファッションシーンにどんな波を起こせるのかは、まだ誰も知らない。

第三幕:アトリエの熱気と役割分担

エレーヌのアトリエを訪れると、そこにはもう一人、重要な存在がいた。グレーの髪をピシッとまとめたマダム・レティシア。
「この道50年の刺繍職人よ。私の師匠みたいな人。メゾンのクチュール部門を長く支えてきたんだけど、今は週に数日だけ、私のアトリエで技術指導をお願いしてるの」
エレーヌが紹介すると、レティシアは小さく頷いた。ミクを見て、最初はやや猜疑心を含んだ視線を向けるが、彼女が熱意をもってファッションを学ぼうとしていると知ると、厳しくも温かい指導をしてくれるようになった。

「まず、ドレスを作るときは『トワル』が基本。いきなり高価なシルクを裁って失敗しないように、安いコットンで仮縫いするのよ。音楽だっていきなり本番じゃなく、デモテープを作るでしょう、ヴァーチャルさん?」

ミクは深く頷く。確かに曲づくりでも、まずはラフなメロディとコード進行で方向性を探り、そこから少しずつ完成形に近づけていく。同じアナログ的な手間暇が、ファッションにも存在するのだ。

アトリエの一角には、小さな靴型(ラスト)がずらりと並んでいる。そこには帽子職人のミシェル、シューズ職人のジャン、刺繍担当の助手たちも出入りしていた。皆それぞれに得意分野があり、エレーヌは作品に合わせて必要な専門家を呼び寄せる。

  • ミシェル(帽子職人)
    「私が作るのはモディストリーと呼ばれる分野。オートクチュールに合わせる帽子は、単なるファッション小物じゃない。全体のシルエットやバランスを左右する、大事なパートなんだよ」
    そう自慢げに語る彼女は、小さな工房を営みながら、複雑な形状のハットやヘッドピースを手縫いで仕上げている。

  • ジャン(シューズ職人)
    バックヤードに革の切れ端や工具を持ち込んで黙々と作業する男。若いが腕は確かで、パリコレの有名ブランドにも納品している。「足元が合わなきゃ、いくらドレスが華麗でも台無しだ」と言い、エレーヌから依頼を受けるとモデルの足を正確に測って理想的なシューズを作る。
    「あなたのライブさ、あれだけ踊るならヒールも独自設計じゃなきゃダメだろう? スリップ防止の溝をちょっと工夫してあげるよ」
    ミクは声を上げて喜んだ。

  • 刺繍アシスタントたち
    レティシアのもとで修行中の若い刺繍職人たち。ビーズやスパンコール、リボン刺繍などを一針ずつ丁寧に施す。彼らは伝統技術を学びつつ、新しいデザインにも積極的に挑戦する。ミクのアイデアで「音の波形を花のモチーフに置き換える」刺繍を試みたが、曲線の精密さに四苦八苦していた。

こうした職人たちが一斉に作業を進め、エレーヌが中央で指示を出すアトリエの光景は、まるでオーケストラのよう。ミクはリハーサル中のバンドメンバーたちとの様子を思い出し、懐かしくも新鮮な気持ちを抱くのだった。

第四幕:音楽制作との共鳴

一方、ミクにはもう一つの重要な仕事があった。パリに来る前から構想していた新曲が、どうしても形にならないのだ。いつもなら彼女はメロディを思いつけば一気に打ち込み、アレンジを練り、クリエイター仲間とデモを仕上げる。だが、今回は歌詞もサウンドもなぜか浮かんでは消えてしまう。

理由を考えたとき、ミクは気づく。「自分は“ファッション”という新しい世界にのめり込みすぎて、音楽のインスピレーションが散らかっているんだ」と。

アトリエから帰った夜、借りている小さなマンションの一室に据えた簡易ホームスタジオで、ミクはキーボードに向かう。ドレスの色彩、刺繍のきらめき、布が重なり合う音。そんなイメージを音符に変えたいのに、思うように旋律が紡げない。

深夜、疲れ果てて机に突っ伏していたミクは、ふと刺繍用の小さな針山を目にする。夕方、アトリエから持ち帰ってしまったのだろうか。穴だらけの針山の姿が、まるでトワルの段階で何度も修正を繰り返す服作りのように見えて、思わず苦笑いする。
「そうだ、失敗を恐れずに試してみればいいんだよね。服づくりだって、何度でもやり直すんだから」

すると次第に、どこか“未完成であること”を肯定するメロディが頭に浮かんだ。ドレスが仕上がる過程のように、少しずつ音色を重ね、展開していく曲。ミクはその夜、何度もピアノを弾き直しながら、ようやく新曲の骨格を形にすることができた。

翌朝、アトリエに向かったミクは、エレーヌとともにドレスのサンプル生地をチェックしていた。ところが、動きに合わせて輝くはずのラメ生地が、暗い照明下ではほとんど光らないことが判明。さらに波形刺繍の配置が多すぎてスカートが重く、歩きづらい。モデルが着るには問題が多い。

ミクは落ち込むが、エレーヌは笑って肩をすくめる。
「私たちも試行錯誤よ。あなたが言った“音楽のデモ”みたいなもの。どこかで妥協せずに完成度を高めたいなら、アプローチを変えよう」

以前、ミクが曲を作るとき、転調を大胆に変えてみたら一気に世界観が広がった経験を思い出す。同じように、ドレスの素材や刺繍の配置も思い切って再構築すれば新しい可能性が見えるはず。失敗を恐れず、何度でも挑む――それがクリエイションの醍醐味だと二人は気づいたのだった。

第五幕:文化の衝突と交流

そんなある日、アトリエにやってきたモディストのミシェルが声を荒らげていた。理由は、エレーヌが「帽子の納期を来週頭にしてほしい」と急に頼んだから。
「無理よ! こっちは既に別のメゾンの仕事がぎっしりなの。それをアトリエの都合でぽんと前倒しされたら、昼夜逆転しても終わるかどうか……」

ミクは困惑してエレーヌを見つめる。ところがエレーヌは悪びれもせず、「しょうがないのよ、こっちもショーの準備が押してるから」と言い返す。フランス的な気質なのか、思ったことはストレートに口にする。

この光景は日本の職場文化に慣れているミクには少し衝撃だった。日本なら、相手の都合をもう少し気遣い、遠回しにお願いするのではないか――と思うが、ここはパリ。お互いに遠慮なく意見を言い合ったほうが後を引かない。結局、ミシェルは「仕方ないわね」と言いながら渋々了承し、エレーヌも「助かるわ」と素直に感謝の言葉をかける。それで争いはあっさり終わり、翌日には何事もなかったかのように二人でランチを楽しんでいた。

「パリでは言いたいことをはっきり言うのが当たり前。仕事に必要なら、衝突してでも突破する。でもプライベートでは仲良し――そんな切り替えができるのよ」
エレーヌの言葉に、ミクはなるほど、と納得する。日本的な協調性も素晴らしいが、ここでは“ぶつかり合い”と“和解”を素早く繰り返すカルチャーがあるらしい。
「文化の違いはあるけれど、音楽の世界でも似たようなことがあるかも。プロデューサーやエンジニアとケンカしながら、最終的に最高の曲を作ること、あるからね」
そうつぶやいてミクは微笑んだ。

さらに彼女たちを待ち受けていたのは、ファッション業界特有の「バイヤーとの商談」。コレクション発表の場で一躍注目を浴びるには、ショーを成功させるだけでなく、実際にバイヤーが「このブランドを扱いたい」と思ってくれることが欠かせない。

パリ・ファッションウィークには公式スケジュール(オートクチュール週・プレタポルテ週)があり、有名メゾンが大規模ショーを行う一方で、新人デザイナーや独立系ブランドはサテライト会場や小規模ギャラリーを借りて「オフスケジュール」でコレクションを披露する。そこに世界中のバイヤーやプレスが足を運び、新しい才能を発掘するのが慣例だ。

「私たちはまず“オフ”で小さく発表するしかない。それでも注目されれば、徐々に公式に近づいていけるかも」
エレーヌはそう言って、バイヤー向けの展示会も計画を進めていた。ミクも可能な限り同席し、ブランドのコンセプトや世界観をプレゼンする。
「初音ミクさん? ああ、あのバーチャルシンガーね。面白いコラボだけど、ビジネスとして成立するのかな?」
そう問いかけるバイヤーも少なくない。しかしミクは、これまでの音楽コラボ実績を説明し、彼女が世界中に多くのファンを持つ“デジタル時代のアイコン”であることをアピールする。いつしか商談の席で語るうちに、自分がやりたいことがより明確になっていくのを感じた。

第六幕:ショー直前の試緊張

エレーヌとミクは、こぢんまりとしたギャラリーを借りてコレクションを開くことに決める。テーマはもちろん「Le Monde est à Moi」。いつかはパリ・ファッションウィークの公式スケジュールに載りたいという野望を抱きながら、まずは最初の一歩を踏み出すのだ。

ドレスは4着、セットアップ数体、アクセサリー類も少し――量産ではなく、あくまで一点物や限定感のあるプレゼンテーション。そこには刺繍専門のレティシアが手がけた巧みなビーズ刺繍や、ミシェルの帽子、ジャンのシューズも組み込まれている。ミク自身はステージ演出を担当し、音楽と照明プランを考えた。いわば「ミクが音楽で演出し、職人が服を作る」二重構造のショーである。

ショーで流す曲をどうするか――これがミクにとって最大の課題だった。新曲はまだ完成していないが、ドレスの制作と同時並行で少しずつ形になりつつある。音色選びに迷うたび、ミクはアトリエで見た生地や刺繍を思い出し、リズムを何度も組み直す。

ドレスが最終仕上げに近づくころ、ミクの新曲もようやく一つの完成形を迎えていた。コード進行はスカートのフレアの広がりをイメージし、メロディの抑揚はライトが当たったときの生地の煌めきを表現する。完成したデモを聴いたエレーヌや職人たちは、「なんだか服が歌っているみたい」と感動を隠せない。それこそがミクの狙いだった。

第七幕:ショー当日:ステージが始まる

会場は決して広くはないが、フランス国内の若手デザイナーを応援するメディアや、ミクに興味を持つファンたちが集まり、そこそこの賑わいを見せた。薄暗く落とされた照明の中、ミクの新曲がBGMとして流れはじめる。そしてステージの幕が上がり、ライトに照らされたドレスが一斉に姿を現す。

何より人々の目を奪ったのは、試作第一号をさらにブラッシュアップしたメインドレス。淡いパステルグリーンが踊り、光の加減によっては虹色のきらめきを放つ神秘的な布。裾を飾るレースには音の波形を抽象化したパターンが施され、まるで歌の息遣いを抱えているようだった。スポットライトが当たるたびに、観客たちは「こんなドレス、見たことない!」と感嘆の声を上げる。ミクは袖口から顔を覗かせ、その光景を目に焼き付ける。自分が音楽で表現してきた“新たな可能性”が、ファッションの形で舞台に立つ瞬間。客席から聞こえる拍手は、ライブのそれとはまた違った重みがあり、胸が熱くなる。
「やっぱりファッションにも、“ステージ”があるんだな……」
その言葉に頷きながら、エレーヌも隣で小さく震えていた。この日のために、どれほど試行錯誤を繰り返したか。何度も深夜まで作業し、失敗を繰り返し、それでも前を向き続けた。

発表会がクライマックスに近づくころ、会場の照明が一気に落とされ、スポットライトがステージ中央を照らす。ざわめく観客の視線がそこに集中した瞬間、ゆっくりと幕が上がり、あの名曲を彷彿とさせる姿の初音ミクが姿を現した。白いトップスは少女らしい繊細なレースをあしらいながらも、胸元の細い紐に可憐さと少しの強気さが同居するデザイン。対照的に黒のニーハイソックスが脚をすらりと引き立て、髪には赤と黒のリボンを重ねて“ワールドイズマイン”のMVを想起させるアクセントを添えている。まるで「私が世界で一番カワイイ!」と主張するかのように、ステージに映えるその姿は圧倒的な存在感を放っていた。

ミクが足先を揃えるとともに、隣のスポットライトがドレスの全貌を映し出す。まさに“プリンセス”と呼ぶにふさわしい華やかさ。レースとサテン地の切り替えが、ふだんのキュートなイメージとは違った大人っぽさをかもし出す。と同時に、さまざまなステージで観客の心をつかんできた「強気でわがままなお姫さま」の雰囲気が、ドレスの一つひとつのパーツに息づいている。観客たちがその世界観に呑まれ、息を呑むのが分かる。まさに「ワールドイズマイン」のタイトル通り、この瞬間のステージはミクのために用意された王国のように思われた。
ミクはゆっくりと胸に手をあてる。会場のBGMとして流れ始めたのは、もちろんワールドイズマインだ。歌うように、しかし静かに一歩ずつ、ミクはステージ前方へと進む。「私が世界で一番カワイイ!」そう言わんばかりの視線を送りつつも、その表情にはどこか儚げな魅力がある。思わず目を離せなくなる観客たちの視線を全身に浴びながら、ミクはマイクを握ると、柔らかな声で歌いはじめる。

”♪キミに心から思って欲しいの かわいいって”
 ステージの灯りが一気に落ちる。ほんの瞬間的な暗転――観客は息を呑む。暗闇の中で、ほんのわずかに生地がこすれる音が感じられる。
”♪世界で 一番おひめさま”
次の瞬間、再び眩いスポットライトがステージを照らすと、そこに立っていたのはまったく別のドレスをまとったミクだった。現れたのは、エレーヌと共に作り上げた「Le Monde est à Moi」オリジナルのドレス。先ほどまでのMV衣装とは一線を画す、白いレースを主体とした柔らかなデザインに、黒と赤のリボンがあしらわれ、ゴシックとロマンチックを融合させたような新しいシルエット。髪も一瞬でアレンジされ、先ほどとは違う妖艶でいてどこか儚げな雰囲気を漂わせる。“着る人が世界を掌握するような力強さと、可憐さを同時に演出する”――それが二人のテーマだった。まさにそのコンセプト通り、このステージでダイナミックな“衣装チェンジ”が成し遂げられ、観客は再度驚嘆の声を上げる。真っ白なレースが揺れるたびに、胸元には赤い飾りが少しだけ覗いて、先ほどまでの“ワガママなお姫さま”を思わせる気高いスパイスを残している。まるで「ワールドイズマイン」の世界観と「Le Monde est à Moi」の新たな挑戦が融合して、一枚の絵画のようにステージを彩っているかのようだ。

曲がフィナーレに近づくと、ミクはゆっくりと最後のポーズを取り、会場の静寂を誘う。照明がやや暗くなり、淡い光がドレスのレースをふわりと照らしている。先ほどの熱狂とは打って変わった幻想的な雰囲気に、観客はさらに心を奪われた。そして最終音が響き渡ると同時に、スポットライトがミク一人を浮かび上がらせる。白いドレスと黒のリボン、長いツインテールにはらはらと赤い花びらのような照明効果が重なり、まるで絵画のように美しい。大きく息をつく間もなく、場内は万雷の拍手に包まれた。

暗転の数秒でガラリと世界を変える――歌とファッションを融合させた大胆な演出によって、誰もが強烈なインパクトを受けたのだ。ミクが軽やかにステージを後にするとき、その背中には確かな自信が宿っていた。“Le Monde est à Moi”というブランド名が示す通り、“世界は私のもの”――そう思わせるにふさわしい瞬間が、そこにはあったのである。

終幕:新しい扉を開いて

バックステージに戻ったミクは、エレーヌと力強くハイタッチを交わす。フランスの伝統メゾンからすれば、まだ“新参者”に過ぎないかもしれない。だが、アトリエの職人たちが一丸となり、音楽とファッションを融合させた一瞬のステージで観客を魅了できた。それは間違いなく、大きな一歩だ。

レティシアは少し離れた場所から微笑み、誇らしげに二人を見つめる。「この道の厳しさは知っているけれど、あなたたちはきっと大丈夫だ」とでも言いたげだ。新曲の完成も控え、バイヤーとの商談も徐々に好感触を得始めている。そう、これからが本当の戦いの始まり。公式スケジュールのパリコレでコレクションを発表する日は、もしかしたら遠くないかもしれない。

ミクはそう思いながら、遠く会場の歓声に耳を澄ます。世界を変えるのは、いつだって音楽やファッションのように人の心に直接触れる力なのではないか――。
「私の歌も、私たちのドレスも、もっともっと進化できるはず」

音楽スタジオとファッション・アトリエが重なり合う風景。文化の違いも、衝突も、そこには大きな可能性と熱気が満ちている。やがてミクは笑みを浮かべてステージに手を振ると、再びこう呟いた。
「“Le Monde est à Moi”――世界は私たちのもの。ここから先の未来を、一緒に作っていこう」

そうして、初音ミクが紡ぐ新たな物語はまだ終わらない。パリの路地裏で、アトリエの雑然としたテーブルの上で、あるいはライブのステージ袖で、彼女とエレーヌ、そして多くの職人たちが交わした針と糸の物語は、これからも続いていく。彼らが目指す先にあるのは、音楽とファッションが共鳴し合いながら創り出す“まだ見ぬ世界”なのだ。

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