Project no.13
長文ポエム折本8P
ココロ(CV;初音ミク)
の文字列見て止まれなくなってしまったので
ちょうど700系の兄弟であるところの
台湾新幹線THSRに乗りながら書きました
「アイスと家出少女たち」
(Inspired by シンカンセンスゴイカタイアイス/シャノン)
夜行バスの車窓から見える光景は、どこか懐かしいものであった。昭和の頃に建てられた古びた工場の煙突や、商店街のシャッターが閉まったままの建物が、街灯に照らされてぼんやりと浮かび上がる。かつて高度経済成長期を支えたこれらの町並みは、今では静かに時間の流れに埋もれていた。そんな風景が続く中、三姉妹は小さなため息を漏らし、肩を寄せ合って座っていた。
「新幹線、乗りたかったよね…」
末っ子のチヒロが窓の外を見ながら呟いた。彼女たちは新幹線に特別な思いを抱いていた。特にチヒロは、その速さや美しい車体に憧れていた。家出の前に家族で一度乗ったことがあったが、その時食べたすごく硬いアイスの記憶が今も鮮明に残っている。今回は節約のために夜行バスを選んだ。新幹線に乗ることが夢だった三人にとって、これは妥協でしかなかった。
「でも、私たちにはこれが精一杯だよ。節約しないと、東京までのお金だってギリギリなんだから。」
次女のタマキが現実的な声で言った。タマキもまた、新幹線のアイスが硬すぎてスプーンが曲がりそうになったことを覚えていた。彼女たちは母親との不和に悩み、家を出ることを決意した。ココロは冷静に計画を立て、タマキと末っ子のチヒロを連れて夜行バスに乗ることにしたのだ。
「いつか、新幹線でゆっくり旅できる日が来るよ。」
運転手の休憩アナウンスがかすかに聞こえる中、長女のココロは軽く肩をすくめる。彼女は少し大人びた考えを持っていた。まだ小学生だが、時折驚くほど落ち着いた言葉を口にすることがあり、妹たちを励ます役割を果たしていた。それぞれの心にわだかまるものがあったが、この旅が終わったらどうするのかは、まだ誰も答えを出していなかった。
「東京に着いたら、まずどこ行く?」
タマキが半ば寝ぼけながら尋ねる。
「とりあえず、新宿駅で降ろされるらしいよ。東京駅までは電車だね。」
ココロがスマホで調べた情報を元に答える。新幹線なら一気に東京駅に到着できるのに、夜行バスはそうはいかない。それでも、彼女たちには贅沢を言える余裕はなかった。
「お金、どれくらい残ってる?」
チヒロが現実的な質問を投げかける。
「うーん、たぶん電車賃は大丈夫だけど…東京駅に着いたらおばあちゃんが迎えに来てくれるって言ってたから、心配しなくていいかも。」
おばあちゃんは優しい人だった。事情を全て話してはいなかったが、久しぶりに会えるという安心感が、少しだけ彼女たちの心を軽くしていた。
...
バスはやがて、広がる田園風景を抜け、遠くにビル群が見え始める。昭和の名残を感じさせる工場や、朽ちかけた商店街の姿が、まるで滅びの中から何かを蘇らせようとしているかのように見えた。滅ぼされざる首都東京に思い馳せるが儘に、三姉妹は窓の外に目を奪われていた。
「着いた…!」
タマキが小声でつぶやく。ようやくバスが新宿駅に到着したのだ。夜明け前の新宿駅に到着したとき、三姉妹は疲れ切っていた。バスを降りた瞬間、肌寒い朝の空気が彼女たちを迎えた。まだ薄暗い空の下、駅前の広場には人影もまばらだったが、ちらほらと酔いつぶれたサラリーマンがベンチでうずくまり、疲れた顔をした夜の世界のお姉さんたちが足早に帰路についていた。ビル群が天高くそびえ立ち、都会特有の冷たい空気が三人の眠気を吹き飛ばす。
「こんなに早いと、人も少ないね。」
タマキが周囲を見渡しながら言う。いつもネット動画で見る新宿の喧騒とは違い、今の新宿は静けさの中に哀愁が漂っていた。
「この時間帯の新宿って、なんだか寂しいね。」
チヒロが、静かな駅の光景に少し驚いた様子で言った。まるで別世界に来たかのように、彼女たちはその異様な空気感を感じ取っていた。
「電車に乗ろう。東京駅まで行かないとね。」
ココロが軽く荷物を肩に掛け、二人を促すように歩き出した。三人とも荷物を抱え、少し疲れた顔をしていたが、確実に東京に来たという実感をかみしめていた。三姉妹は、まだ眠るような東京の一部を抜け、電車に乗り込んだ。
電車を乗り継ぎ、ようやく東京駅に到着した。新幹線が発着するホームを横目に、三姉妹はその荘厳な雰囲気を感じながら足を進めた。ここまでの道のりは長く、疲れも溜まっていたが、心の中にはこれからのおばあちゃんとの再会に対する期待も混ざっていた。
改札を出る前に、タマキはふとスマホを取り出した。通知は止まったままで、最後に送られたメッセージが表示されている。「いえ(4)」というチャットグループ――母親と三姉妹だけが参加するそのグループは、かつては些細なことで賑わっていた。チヒロが唐突に冗談を言い始め、ココロがそれに突っ込みを入れるやり取りがいつもの風景だった。
だが、メッセージのやり取りが途絶えがちになり、近頃ではまるで止まった時間のように静かなままだった。
「これからあのチャットが賑わうことは、もうないのかもしれない…」
タマキは心の中でそう呟き、少しだけ寂しさを感じた。あの頃の楽しかったやり取りが、今では遠い昔のことのように思える。家族の距離を実感しながらも、彼女はまだ何かが変わるかもしれないという希望を捨てきれなかった。
「行こう、おばあちゃんが待ってるよ。」
ココロがタマキを促し、チヒロも小走りで二人に追いつく。
改札を抜けると、白髪交じりの高槻おばあちゃんの優しい笑顔が三人を迎えていた。彼女の手には、三姉妹が好きなすごく硬いアイスが入った保冷袋が握られていた。三姉妹はそのアイスを、今度はおばあちゃんの家でゆっくりと味わいながら、少しずつ心をほぐしていくことになるだろう。そして、あの新幹線に再び乗れる日を、いつか夢見ることになるかもしれない。